顎矯正手術 下顎前突(受け口)整形手術下顎枝垂直骨切り術(IVRO)

顎矯正手術 下顎前突(受け口)IVRO

手術の方法

 

局所麻酔薬の浸潤

0.25%キシロカインEを下顎枝前縁、下顎枝外側切痕部、内側切痕部、下顎角部、下顎大臼歯歯肉頬移行部に浸潤させます。十分なエピネフリン効果を待って切開に移ります。

切開

切開

頬粘膜を筋鈎にて外側に伸展させます。下顎枝外斜線上で、下顎咬合平面やや上方の高さから下顎第一大臼歯近心にいたる約3㎝の粘膜、骨膜の切開を行います。切開は低い位置で始めることにより脂肪組織の逸出、頬神経の損傷が避けられます。

剥離

下顎枝下半分の骨膜下剥離

骨膜剥離は側頭筋の剥離から始めます。下顎枝前縁より、骨膜剥離子にて下顎枝ない外斜線に沿って側頭筋腱を幅広く剥離しつつ、筋突起基部まで剥離します。

次に下顎枝外側骨膜の剥離を行います。下顎切痕付近は骨の陥凹が存在することに加え、咬筋深層、頬骨下顎筋が停止するため注意を要します。

次に咬筋の剥離に移ります。咬筋の発達した症例や下顎枝の内側への弯曲が強い症例では骨膜や筋膜を破綻させやく、幅広く骨膜剥離を進めるとともに、弯曲の骨膜剥離子を用いつつ丁寧に行います。

続いて下顎枝内側では下顎切痕から下顎孔に至る部分の剥離を行います。下顎枝内側の剥離は、側頭筋の停止する筋突起の内側から内斜線に沿って幅広くおこなうことより始めます。筋突起内側ならびに内斜線部の隆起した骨の削合をおこなうと内斜線より下顎小舌にむけた下方からの剥離と相まって、切痕部にいたる術野がひらけます。

垂直骨切りの手順

テンプレート装着

“垂直骨切り”

骨切りは下顎孔後方で、上方は下顎切痕に、下方は下顎角前方の下顎下縁にいたる骨切りを行います。

私は術前に3次元模型を用いて、‟骨切りライン“のテンプレートを作成しています。垂直骨切りに先立ってこのテンプレートを装着します。このテンプレートは、下顎切痕、下顎枝後縁、下後角前縁の3ヶ所で固定されるために、骨切り時のズレなど心配なく安定しています。

リトラクター挿入

骨切りに際して、下顎枝内側には切痕リトラクター、外側には下顎後縁リトラクターを挿入します。骨切り時の術野が確保され、顎動脈などの重要な周囲組織が保護されます。

垂直骨切り

“垂直骨切り”

“垂直骨切り”

はじめにテンプレートの後縁に沿って、下顎孔後方よりオシレーティングソーにて半層骨切りを行います。次にテンプレートを外して、下顎孔後方では下歯槽動静脈や神経束の損傷はありません。中央部より骨切りをはじめて、下顎角に向かい、その後に下顎切痕部への骨切りを行います。切痕部への骨切りは骨が薄く容易ですが、下顎枝内側軟組織を保護するためのリトラクターを挿入し、明視下で切痕部への骨切りを行います。

 

ivro

 

近位骨片の調整

内側翼突筋の処理について

“骨切り骨片の調整”

内側翼突筋の剥離については、意見の分かれるところです。Hallは内側翼突筋のした前方の剥離は必要であり、その程度は骨切り後の近位骨片の重なり合いの度合い、下顎枝の厚さによるとしています。大きく下顎骨を後方移動するためには内側翼突筋すべての剥離も必要となると述べています。

一方、内側翼突筋すべての剥離が行なわれると、外側翼突筋に対する抵抗はなくなり、いわゆる下顎頭の“sag”は顕著となり、顎関節脱臼の可能性が生じます。Wertherは内側翼突筋を剥離せず、残存させることにより、嚥下運動の際の筋バランスによる近位骨片が適切な位置に保たれるため、下顎頭脱臼を防ぐことができるとしています。Bellらは、内側翼突筋の完全な剥離は近位骨片への血流が断たれるためこれを避けるべきであるとしています。

実際には下顎後方移動量の大きい症例では、内側翼突筋を残存させた状態では骨片を重なりあわせることは困難で、内側翼突筋の剥離が必要になります。その際の近位骨片の位置付けと安定は、干渉部の骨削合による調整、顎骨周囲筋の作用、術後の顎間固定やエラスティックによる顎間牽引により計られます。

骨切り骨片の調整

“骨切り骨片の調整”

下顎骨を後方に移動する場合、近位骨片が大きく外方に突出することがありますが、その場合には骨片の削合が必要です。切痕部付近の接触部の骨削合を行い、骨切り骨片を広く接触させるよう調整します。さらに近位骨片下端の突出部の削合、切除も行います。

咬合の安定性の確認

遠位骨片の可動性が十分に得られたら、術前に作成したオクルーザンスプリント(シーネ)を介在させ、下顎歯列がスプリントに適合することを確認します。最後に粘膜骨膜縫合を行いますが、血腫予防にペンローズ・ドレーンを留置します。なおドレーンは翌日に抜去します。

下顎前突(受け口)